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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)1857号 判決

主文

一  反訴被告(本訴原告)は、反訴原告(本訴被告)に対し、四二〇五万七二三四円及びこれに対する昭和五八年二月一日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払いをせよ。

二  本訴原告(反訴被告)の請求及び反訴原告(本訴被告)のその余の請求を棄却する。

三  本訴費用は本訴原告(反訴被告)の負担とし、反訴費用はこれを五分し、その四を反訴被告(本訴原告)の負担とし、その余を反訴原告(本訴被告)の負担とする。

四  この判決は反訴原告(本訴被告)の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  本訴原告(反訴被告)の本訴請求の趣旨

1  本訴被告(反訴原告、以下「被告」という。)は、本訴原告(反訴被告、以下「原告」という。)に対し、五〇〇〇万円及びこれに対する昭和五八年三月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告の本訴請求の趣旨に対する答弁

1  原告本訴請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  被告の反訴請求の趣旨

1  原告は、被告に対し、五〇八九万四八九一円及びこれに対する昭和五八年二月一日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払いをせよ。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行宣言

四  原告の反訴請求の趣旨に対する答弁

1  被告の反訴請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  本訴請求の原因

1  原告は、昭和四八年一月一三日設立され、主に建設工事機材の製造販売を業としている。被告は、昭和五四年頃から原告の下請けとして仮設機材の製造を行ってきたものである。

2  原告と被告とは昭和五六年七月九日次のとおりの製造委託契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(1) 被告は原告からの発注にかかる製品については原告のみに納入する。

(2) 被告は、原告からの発注品と同一又は類似する製品及びその他原告の製造販売する製品と競合する製品を原告以外の者から受注して製造販売してはならない。

(3) 被告が右(1)、(2)項に違反した場合には原告は被告から違反製品等を直ちに引き取ることができ、更に違反製品の販売定価に販売数を乗じた額の一〇倍の額の損害賠償を求めることができる。

3  右委託契約は昭和五七年九月一三日被告の債務不履行を理由としていったん解除されたが、同月二二日同一の内容で再契約された。

4  被告は、昭和五六年七月九日から昭和六二年一一月一五日までの間に別表記載のとおり原告以外の者から原告の発注品(クランプ金具(通称カプラー又はクランプ、実用新案権登録番号第一三九二六五一号)及び仮設足場板仮受物(通称ブラケット、意匠権登録番号第四八三一五三号))と同一又は類似する製品を受注して製造販売した。その違反製品の販売定価に販売数を乗じた額の合計額は別表記載のとおり七七五七万五六六五円となるから、原告は被告に対し、その額の一〇倍の額の損害賠償を求めることができる。

5  別表記載の昭和五六年九月一三日から同月二二日までの間の販売分については予備的に民法七〇九条による不法行為責任を主張する。

6  よって原告は被告に対し、右損害賠償金の内金として、五〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五八年三月二二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  本訴請求原因事実に対する認否

1  本訴請求原因1の事実中被告が原告の下請けであるとの点は否認し、その余は認める。

2  本訴請求原因2の事実は否認する。

3  本訴請求原因3の事実中その主張の解除の意思表示のあったことは認め、その余は否認する。

4  本訴請求原因4ないし5の事実は否認する。

三  本訴請求原因に対する抗弁

1  仮に本件契約が成立していたとしても、右契約の原告取扱商品との競合品取扱禁止の規定は、原告がその優越的な地位を利用し、公正な競争を阻害する目的をもって被告に対し、第三者との取引を全面的に禁止するものであり、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律二条九項、一九条、不公正な取引方法(昭和二八年公正取引委員会告示第一一号、昭和五七年同委員会告示第一五号)旧一号、(新指定二号)、旧七号(新指定一一号)、旧八号(新指定一三号)に該当する。また、損害金一〇倍条項は原告の優越的な地位を利用して被告に対し、通常の取引観念からは逸脱した隷属的ともいえる不利益な条件を課すものであって、同告示旧一〇号(新指定一四号の三、四)に該当する。よって、右各契約条項はそれ自体直ちに、又は公序良俗に反し、民法九〇条により無効であるというべきであるから、これに基づく損害賠償の請求をすることはできない。

2  仮に本件契約が有効に成立していたとしても、原告は被告に対し昭和五六年六月頃から被告の製造する製品が原告の意匠権を侵害するから告訴するとか、原、被告間の取引代金決裁のため被告が原告に交付していた支払手形の決済金を供託するとか言って、被告代表者らを脅迫し、被告の取引先に対しても被告との取引は中止するとか、手形は供託するとか言って被告の信用を損ない、取引先が被告との取引を断念するように仕向けたため、被告は取引銀行からはつなぎ資金の融資を断られ、取引を中止する仕入先も出てきて苦境に陥った。原告は被告をこのような状況の下に追い込んで、その提案を拒否できないような実情を作出したうえ、被告代表者らをして本件契約に調印させたものであり、右契約は原告の脅迫によって締結されたものであるから、被告は昭和五九年四月一〇日の本訴第一〇回口頭弁論においてこれを取り消す旨の意思表示をした。

四  抗弁事実の認否

1  抗弁1の事実は否認する。原告が被告に製造を委託したブラケット及びカプラーは原告の今後の命運を決する商品であり、その実用新案権及び意匠権を獲得し商品化するため原告は莫大な研究費や宣伝費等の資金を投下し、現に右商品は当時の仮設機器業界において注目の的であって、その技術を盗用しようと躍起になっていた。そのため原告は被告に製造委託するについても機密の保持についてくれぐれも注意をしてきた。ところが、被告は右委託を受けた当初から原告の委託製品を他社へ横流ししていたことが発覚した。被告は原告に対し、これを陳謝し、二度と行わない旨を誓ったので原告はこれを許すこととして昭和五六年一月八日本件契約の前身となる契約を締結したが、この契約には違約金を含め本件契約と同様の条項がある。しかるに被告は同年五月頃から原告と最も競争関係にある中央ビルト株式会社に対し委託製品を横流ししていたことが判明した。原告としては当時被告との取引関係を解消しようとしたが、その頃被告の製造品目の五〇パーセント以上は原告の委託製品であり、今契約を止められるのは被告の存亡にかかわると被告代表者らから懇請されたため従来の契約を再度確認し、将来同様のことを惹起しないことを条件として製造委託を再開することとし、このような経緯を経て本件契約が締結されたのである。したがって、本件契約の締結について原告がその主張のような不公正な取引を行ったことはない。

2  抗弁2の事実は否認する。右1のとおり本件契約の締結に当たって脅迫的な状況は全くなかったものである。

五  反訴請求の原因

1  被告は鉄工製品等の製造販売を業とする会社であり、原告は建設工事仮設機材の製造販売等を業とする会社である。

2  被告と原告とは、昭和五三年七月頃から、原告指定の建設工事仮設機材を被告が製造し、原告に販売するという内容の取引を継続的に行ってきた。その決済方法は、毎月二五日〆、翌月月末払いというものであった。

3  被告の原告に対する売掛債権は昭和五七年一二月二五日現在で五〇八九万四八九一円を下回らない額となった。

4  よって、被告は原告に対し、右五〇八九万四八九一円及びこれに対する支払期日の翌日である昭和五八年二月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

六  反訴請求原因事実に対する認否

1  反訴請求原因1及び2の各事実は認める。

2  反訴請求原因3の事実中原告の被告に対する買掛金債務が昭和五七年一二月末日現在で二五六六万二八九八円であることは認め、その余の事実は否認する。

七  反訴請求原因に対する抗弁

1  原告は被告に対し昭和五七年一二月二七日被告に到達した内容証明郵便をもって被告の売掛金債権と原告の本訴請求に係る損害賠償債権とを対当額において相殺する旨の意思表示をした。

2  被告はその主張に係る売掛金債権を長崎鋼板工業株式会社に譲渡し、同社は原告に対しその旨の通知をした。

八  抗弁事実に対する認否

1  抗弁1の事実中相殺の意思表示のあったことは認め、その主張は争う。

2  抗弁2の事実中被告が長崎鋼板工業株式会社に対し昭和五八年四月五日債権譲渡をしたことはあるが、それは取立権能の授与を目的としたものであった。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一  本訴について

一  原告が昭和四八年一月一三日設立され、主に建設工事機械の製造販売を業としているものであり、被告が昭和五四年頃から原告の注文により仮設機材の製造を行ってきたものであることは当事者間に争いがない。

二  本件契約の成立に関する〈証拠判断略〉、〈証拠〉によっても、川村は原告代表者の意を受け、甲第一号証の契約書文面を被告方事務所に持参して被告の取締役である松尾勝利(以下「勝利」という。)らにこれを示し、それへの署名押印を求めたところ、勝利、被告取締役である松尾健二及び同松尾実は自らこれに署名押印し、勝利が被告の記名判を押捺するとともに被告の印章を押捺し、かつ代表取締役である松尾敏晴の署名押印を同人に代わって行い、その書面を川村に交付し、同人はこれを原告方に持ち帰ったこと、その約一ヵ月後に被告代表取締役や、勝利らがその各自の印鑑登録証明書を携えて原告方に挨拶に赴いたことが認められるのであるから、これらの事実によれば優に本件契約の成立を肯認しうるのであり、契約書に原告の記名押印のないことや契約書が原告の所持する一通しか作成されなかったことは、右の契約成立の事実を左右するものではないといわなければならない。

なお、〈証拠〉によれば、勝利らは本訴契約書面を川村に交付するについて、注文書を発行すること、年間予定数量を明示すること、被告開発商品については一応原告に売り込みをするが、パテント侵害をしない物件について条件的に合わないものは他社での販売もやむをえない等の注文を川村に対しつけたことが認められるが、右各証言によっても、これは本件契約の解釈又は運用についての被告側の要望の取り次ぎ方を川村に依頼したに過ぎないものであって、この点について諾否の返事が無い限り本件契約が成立しないとか、このような事項が本件契約の内容となっていたとかいうような性質のものではなかったものと認めるべきである。

三  しかるところ、被告は本件契約が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)一九条に違反するなどして無効であると主張するので以下この点について検討する。

〈証拠〉を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  被告は昭和五三年頃から原告の委託を受けて、その製品である建設工事仮設足場用機材(主としてクランプ又はカプラー及びブラケット)を製造し、これを原告に納入してきたが被告はその製造のために当初自動鋸盤、ボール盤、プレス機及び溶接機等を、後に二〇〇トンプレス等七台に上るプレス機やコンプレッサー、カシメ機械を導入し、その資金として銀行から約六五〇〇万円に上る融資を受け、従業員も新規に雇用する等の投資を行った。原、被告間の取引は約二割が現金決済であったが、八割は四ヵ月先を支払日とする手形決済であり、被告はこれを割引に出して経費に当てていた。その取引による売上は当初は数百万円のオーダーであったが、昭和五五年頃からは月三〇〇〇万円から多い時には四〇〇〇万円に上り、被告の生産する製品の四割から五割を原告の製品が占めるようになって、割引に出ている原告振出の支払手形の額面合計は常時一億円を超えていた。しかしながら、被告が原告専属の下請けメーカーであったことは終始なく、原告が被告を専属の下請けであるものとして特段の保護を加えたことも、その要請により時に労務賃として前渡金を用立てる以外にはなかった。

2  仮設用機材の業界は競争メーカーが多く、原告は後発メーカーであったためシェアの拡大を企図していたところ、クランプ金具について実用新案権(登録第一三九二六五一号)を、ブラケットについて意匠権(登録第四八三一 五三号)を有し、その特色を生かしてこれら仮設機材の売り込みを図り、昭和五六年から五七年にかけて急速にシェアを拡大していた。その製品の製造は半分以上が被告工場で製造されていたところ、昭和五五年当初頃から原材料である鋼材の価格や電気料金等公共料金が一割以上値上げされ、従来の納入価格ではコスト割れを起こす情勢となってきたため、被告は原告に対し納入価格の値上げを強くしばしば要求したが、原告は殆どこれに取り合わず、値上げが実現したのは納入量の少ないブラケット一〇〇〇ミリのもののみで、それ以外のものは原告と被告との取引の全期間を通じついに値上げされることはなかった(クランプについては昭和五七年六月に価格が改定されたが、これは仮設工業会のクランプに関する規準が変更され新しいタイプのクランプが製造されることになったことに伴う当然の措置であって、値上げには当たらない。)。

3  原告と被告との継続的取引については、従来は特段の書面による契約を締結していなかったが、昭和五五年末頃被告が原告の委託にかかる製品若干量を塚崎産業株式会社に売り渡したことが発覚したことから、原告は、今後の取引を打ち切るとか振り出した支払手形について満期に異議提供金を供託して不渡りとするとか申し向けて、被告に要求して甲第一三号証の契約(以下「旧契約」という。)を締結させた。右契約には、被告は原告の規格によるものを原告の発注書により製造し、原告に納入するものであって、勝手に製造してはならない、被告は原告以外に販売又は譲渡してはならない、万一違約した時は、被告は原告の販売定価の一〇倍の補償をする旨の条項が含まれていたが、被告の代表取締役らとしても原告との取引を打ち切られたり、手形を不渡りにされたりすると会社として致命的な打撃を被り兼ねないことから、やむをえずこれに調印したものであった。

4  前記のように原告から納入価格の値上げを拒否され、原告との取引からは利益が生じないようになってきたため、被告は、原告から独立することを考え、独自に原告のクランプ及びブラケットとは構造や外観において異なるクランプ及びブラケットを開発し、密かに実用新案等の申請をするとともに、これらを原告製品と別個に製造し、他社に売り渡すようになった。しかるところ、昭和五六年五月頃被告が中央ビルト工業株式会社に売り渡した分が原告に発覚した。原告は、これを強く抗議したが、被告は原告製品の横流しではなく、原告が独自に開発した商品の納入であると争った。しかしながら被告は、川村をして新たな契約書を被告方に持参させ、これに署名押印しなければ、被告との取引は打ち切り、かつその振り出した支払手形も異議申し立て提供金を供託して不渡りにする等と申し向けさせた。被告専務取締役である勝利等は、原告にそのような措置を採られると被告が致命的な打撃を被り兼ねないことを懸念し、やむをえず右契約書に署名押印したが、その契約書には、被告は、原告からの発注品と同一又は類似する製品及びその他原告の製造販売する製品と競合する製品を原告以外の者から受注して製造販売してはならない旨また、被告が右条項に違反した場合には原告は被告から違反製品等を直ちに引き取ることができ、更に違反製品の販売定価に販売数を乗じた額の一〇倍の額の損害賠償を求めることができる旨が記載されている。しかしながら、被告が原告製品と類似した製品を他社へ販売したとしても、それが原告の工業所有権を侵害しない限り、特に原告に競争会社による販売と異なった損害が生ずる訳ではなく、原告がその専属的下請け会社でもない被告の独自開発商品の販売についてこのような制約を加えなければならない合理的理由は見出し難い。

5  原告は昭和五七年六月から八月にかけて被告の製造した原告製品が被告によって全国的に大量に横流しされているとして被告に対し、カプラー用金型の仮の引き渡しを求める仮処分を当庁に申請し、その旨の決定を得て、同年九月二二日その執行に着手したが、仲介者をいれた話し合いにより、被告が抱えている原告製品用原材料を消化するまで原告製品を製造し、これを原告が相当価格で引き取ることで話し合いがつき、被告はなお暫時原告製品の製造を継続したが、同年一二月原告がブラケット及びカプラー製品について引き渡しの仮処分を申請する等したため原、被告間の取引は完全に打ち切られ、昭和五八年四月被告はこれらが原因となって不渡り手形を出し、倒産した。

以上のとおり認められ、〈証拠〉のうち右認定に反する部分は措信しない(なお、被告が独自に開発したカプラー及びブラケットが原告の実用新案権又は意匠権を侵害するものであることを認めるべき証拠はない。)。

以上認定の事実によれば、本件契約の右に認定の条項は、原告が、自己の取引上の地位が相手方より優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に相手方に不利益となるような取引条件を設定したものとして健全な取引秩序を乱し、かつ、公正な商慣習の育成を阻害するものとして公序に反し(独禁法一九条、二条九項、昭和五七年六月一八日公正取引委員会告示第一号(不公正な取引方法)一四号参照)、民法九〇条により無効となるものというべきである。

四  そうすると原告の本訴請求のうち、本件契約を根拠とするものは、その余の点について判断するまでもなく理由がないものというべきであり、不法行為を根拠とするものは前示のとおりこれを認めるべき証拠がないから、右請求はいずれも理由がなく、これを棄却すべきである。

第二  反訴について

一  被告が鉄工製品等の製造販売を業とする会社であり、原告が建設工事仮設機材の製造販売等を業とする会社であること、被告と原告とは、昭和五三年七月頃から、原告指定の建設工事仮設機材を被告が製造し、原告に販売するという内容の取引を継続的に行ってきており、その決済方法は、毎月二五日〆、翌月月末払いというものであったこと、被告の原告に対する売掛債権が、昭和五七年一二月末日頃現在で少なくとも二五六六万二八九九円存在したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二  〈証拠〉によれば、被告は昭和五七年九月〆の請求分として一七五一万五四四〇円の出来高を上げ、その支払いを原告に請求したが未払いであること、被告は同年一一月二五日〆の請求分として二二一五万六八五三円、同年一二月一〇日〆の請求分として三五二万六〇四五円合計二五六八万二八九八円の出来高をあげ、原告に請求していること、右一一月及び一二月分の請求についての原告側の査定は材料支給分や返品を除き合計二四五四万一七九四円となっていることを認めることができ、〈証拠〉中右認定に反する部分は措信せず、昭和五七年八月〆の請求分が残っている旨の〈証拠〉は甲第一八号証の記載に照らし措信しない。

以上によれば、被告は原告に対し、売り掛け代金として四二〇五万七二三四円及びこれに対する昭和五八年二月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による金員の支払い義務があるものと認めるのを相当とする。

三  原告の抗弁1については、その相殺に供する反対債権が発生していないこと、右第一において検討したとおりであるから、理由がなく、抗弁2については、〈証拠〉によれば、その主張の債権譲渡は取立委任を目的とするものであったことが認められるから、同様に理由がないこととなる。

第三  結論

以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、被告の反訴請求は右第二に認定の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、仮執行宣言について同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中込秀樹)

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